防災について
防炎とは、木材や繊維などの「燃えやすい」ものを燃えにくくし、火災の発生を未然に防ぐことです。 ここでは、難燃剤を用いた防炎処理について簡単にご説明いたします。
1.防炎のはじまり
人類は「火」を発見し、「火」を利用することによって、文明社会を創造してきました。
そして石油の発見以来、大量の「火力」が文明の発展に拍車をかけ、20世紀における「豊かな」暮らしを私たちにもたらしました。
しかし、同時に人類に文明をもたらした「火」は、種々の災害を引き起こし、かけがえのない多くの命や、財産を奪ったのも事実です。
このため人類は、有史以来「身の回り品の安全化」を探求し続け、特に日常生活において「火」に近づく機会の多い繊維類、紙製品、木材製品、そして近年ではプラスチック製品などを燃えにくくすることによって、火災の広がりを制限する、遅らせること、すなわち「防炎化」の研究を古くから試みてきました。
文献によりますと、17世紀中頃に当時の芝居小屋の天幕を粘土や石膏で加工したのが、織物の防炎加工の始まりとされており、その後19世紀にかけて主に「無機塩」による防炎加工がおこなわれ、現在では私たちの生活と切っても切れない密接な関係になっております。
2.防炎加工の概念
一般に物質が燃焼する場合、その現象は二つに分けて考える事が出来ます。
- ① 物質が熱により変質分解して可燃性ガスを発生し、これが炎を上げて燃える現象
- ② 炭化した残渣が酸化して徐々に燃焼して行く現象
前者を燃焼、或は炎焼(Flaming)、後者をじん焼、或は余じん(Glowing)と称しております。
防燃という言葉には、防炎(Flame proofing)と防じん(Glow proofing)の二つの意味が含まれております。
日常生活に於いて我々が防燃性を必要とするものは
- ① 繊維素及び天然繊維、紙類
- ② 合成繊維、合成樹脂類
- ③ 木材、合板類
に大別されます。
アメリカでの統計によると、火災事故原因の約20%は繊維製品によるものとされ、繊維製品の防炎加工が特に必要である事が判ります。
3.難燃剤に要求される条件
- ① 物質が熱により変質分解して可燃性ガスを発生し、これが炎を上げて燃える現象
- ② 燃焼した時に、有毒ガス、煙などを発生しないこと
- ③ 一般の加工工場が有している設備、機械装置で処理可能であること
- ④ 織物等素材の性質を損なわないこと(触感、引裂強度、引張り強度等)
- ⑤ 洗濯などに耐久性のあること
- ⑥ 粉末のようなものを表面上に発生させないこと
- ⑦ ある程度以上吸湿せず、素材が湿り気をおびたり、ねばねばしないこと
- ⑧ 燃焼したとき、外気と皮膚との間に織物の形として残る様な丈夫なもえさしを形成すること
- ⑨ 防炎性と共に、防じん性を与えること
- ⑩ 織物の後処理加工、即ち風合調整、染色、防水、樹脂加工を阻害しないこと
4.防炎の機構
- ① 吸熱作用…防炎剤が高温で分解する際、多量の熱を吸収して自己消火する
- ② 被覆…個々の素材にガラス状炭火層の被膜を形成させ、素材と空気(酸素)を遮断する
- ③ ガスの希釈…防炎加工素材は、加熱により不燃性ガスを発生し可燃性ガスを希釈して発火させない
- ④ 熱分解反応の変化…防炎剤と素材を架橋結合、水素結合し、難分解性物質、結晶性炭素の生成を増加させる
- ⑤ 脱水反応…加熱時に、セルロースを結晶性炭素と多量の水に分解することを促進する
5.代表的な防炎機構例
●合成繊維
天然繊維と異なり、炎に接すると先ず収縮溶融で玉状となり、燃えにくいが一旦発炎燃焼を始めると、激しく燃焼する。画一的な説明は不可能であるが、効果のある防炎作用としては、
- ① 熱分解により生成した不燃性ガスによって、燃え易い気体をうすめる
- ② 不燃性物質を作って、連鎖反応を切断する
- ③ 合成繊維は熱分解により可燃性ラジカルを生成するが、連鎖的に発生したHO・をH₂Oに変化させることによって連鎖分解を停止させる
●合成繊維・合成樹脂の分解過程
●防炎機構
6.木材及び合板
木材は熱分解が200℃程度で始まり、発火点の低い可燃物が多量に発生し爆発的に燃焼する。
そのため難燃機構は物理的作用と化学的作用をうまく相乗的に働くようにする必要がある。
- ① 空気中の酸素との接触を妨げる被覆効果
- ② 不燃性ガスの層を形成し、外部よりの熱を反射又は内部への伝導を防ぐ作用
- ③ 防火に効果的な炭化層の形成を促進する化学作用
- (イ)吸熱反応によって熱を抑制し、連鎖反応を阻止する
- (口)不燃性ガスを発生し、可燃性ガスを希釈する
- (ハ)炭化を促進し黒鉛化せしめ、形成された丈夫な炭化層は炎を裏面に通さない
- (ニ)形成された炭化層が断熱材として働く
防じん作用は、繊維の場合と同じと考えられている。
7.防じん作用
炭火した繊維等の燃焼は、コークスや木炭の様に、炭素が直接燃焼するものと考えられます。
この場合、燃焼する炭素は周囲の条件により下記のどちらかの過程で酸化されます
- (イ) C+1/O₂ → CO+26kcal/mol 【1次反応】 ⇒CO+1/O₂ → CO₂+68kcal/mol 【2次反応】
- (ロ) C+O₂ → CO₂+94kcal/mol
「防じん作用」とは、固体が直接酸化される(イ)の1次反応及び(ロ)の反応を防ぐことであり
- (1)分解する時に吸熱して反応をおさえる
- (2)不燃性ガスで炭素が空気(酸素)と接触するのを防ぐ
の2点がその主な作用であります。
※(イ)の2次反応は、ガスが燃えるのでじん焼ではなく炎焼で、もし2次反応が止れば、1次反応の発熱量では足りず、他からの加熱が無しでは反応が急速に遅れて自然に燃焼は止まる傾向となります。
ここで重要なのは、防炎処理された繊維等が燃える場合、まず分解して可燃性ガスを出し、繊維等に含まれる防炎剤が効果を示しますが、この時に防炎剤が全量飛散されずに炭化された残渣に残らねばならないことです。
もし全部分解してしまうとタール化された部分は防炎処理されていない状態となり比較的燃え易くなります。
ある程度の防炎剤が炭化後も残りますと、上記(イ)(ロ)の酸化反応時にさらに分解して(1)(2)の如き防じん作用を示します。
さらに、結晶形の炭素は、無定形の炭素に比べてはるかに燃えにくいので、繊維等が熱によって分解する時、炭素の結晶化を促進することで優れた防じん効果を示すと考えられます。
8.防炎用語
本ページで用いている用語の説明です。
防炎 | 消防法に適用する場合に使用する。 | ||||
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難燃 | 建築基準法国土交通省関係に適用する場合、および、繊維、合成樹脂等内部添加による素材の場合に使用する。 | ||||
準不燃 | 建築基準法に適用する場合。 | ||||
不燃 | 建築基準法に適用する場合。 | ||||
残炎 | 消防法による試験で、火源を遠ざけてからも炎が残っていること。 | ||||
残じん | 炎が消えてから、無炎燃焼を行なっていること。 | ||||
防燃 | 一般語として用い、燃焼と残炎、残じんを防止すること。広義として用いる。 | ||||
絞り率(%) | 100gの布をノンネン溶液に浸し絞った後150gになったとすると、これを絞り率50%と表わす。
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付着量(%) | 絞り率と同じ表示で、一般に加工前、加工後を比べて、重量増加を表わす。 | ||||
希釈率 | ノンネン等を水、溶剤でうすめる場合、100gのノンネンを100gの水、溶剤で薄めた場合を2倍に希釈したと言う。“100部のノンネンに100部の水を加え”とも表わすが、この場合も重量部です。 | ||||
炭化長/炭化面積 | 垂直法、45゚法等で、炎で試験片を燃やした場合、炭化して黒くなった部分の端から端からまで何㎝あるかを表す。面積も同じ。炭化している部分がはっきりしない場合は、引裂強度が極端に下っていることで見わけることがある。 | ||||
自己消火性 | 火源を試料片より取り去った後、炎焼及びじん焼を自己で継続しえない性質をいう |